延命治療とは6 拘束手袋

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、YouTubeで延命治療についてお話をしています。

前回老衰状態になった時の充分な栄養が摂れる3つの栄養補給についてお話しました。

この絵本のよしこおばあちゃんは、今、老衰の状態になっていて、口から何も受け付けなくなっています。このままでは栄養が摂れないので、時間の問題です。よしこおばあちゃんは、どうなっていくのでしょうか?

いつも可愛がってもらっていたひ孫は、「栄養補給と言っても、要は延命治療ではないの?ひいおばあちゃんは、『そっと自然のままにさせて』と拝むように言ったよ。」と言いました。本人の気持ちは皆わかっています。

家族は、悩み、話し合いをします。この世に生まれてきた以上、いずれその時がくるのは分かっていることですが、いざその時がきてしまうと、うろたえて、 「今を乗り切れば、食べられるようになって、まだ元気なおばあちゃんに戻ってくれるんじゃないか?」と、考えたりもします。つい最近まで元気だったので、おばあちゃんの死が迫っていることを受け入れられません。

結局、ひいおばあちゃんの息子であるおじいちゃんが、ひいおばあちゃんに生きていてほしくて、経鼻チューブ栄養を選択しました。

充分な栄養が補給できるので、少し元気になりました。家族は、とりあえず安心します。でも、本人は、鼻に常にチューブが入ったままなので、「気持ち悪いよ。」と言っています。

そしてついに、ひいおばあちゃんは、鼻から胃へ入れているチューブを引き抜きました。 医師は、「また、引き抜くと危険なので、とりあえず拘束に同意してください。」と言います。同意が無い拘束は、虐待と言われます。

おじいちゃんは仕方なく同意書にサインします。すると、ひいおばあちゃんは、手の指を動かせない拘束手袋をされ、柔らかい包帯のような布で手首をベッドの柵に固定されました。 (このおばあちゃんはしませんでしたが、足が動いて点滴をひっくり返したりする場合もあり、足も固定された人もいます。)

おじいちゃんは、ひいおばあちゃんのこの姿を見て、悲しくなり、 「今を乗り切れば治る人は栄養補給も必要だろうけど、老衰でもう体が拒否しているのに、括り付けてまで栄養を与えなければならないのかなあ。」「でも、先生に言えないなあ。」と自分の選択への後悔もあり、辛い胸中をつぶやきます。

医師から 「この今の危険な状態では、退院後の受け入れ先はありませんよ。胃ろうをお勧めします。」と言われます。 現実の話で、「医師から『今、栄養を入れないと餓死するんですよ。』と言われた。」という方がいるのも事実です。餓死とは、すごいインパクトですが、老衰の場面では、もう体が必要としていない状態なので、うつらうつらとして苦しくないと書かれた書籍が多々あります。

経鼻チューブ栄養はいつでも止められるので、延命治療ではありません。」という意見もあります。実際、経鼻チューブ栄養は、唾液が気管に入り誤嚥性肺炎や感染症を起こすことがあるので、そう長くは使えません。

その後の胃ろうを選択しない場合は、経鼻チューブ栄養を続けるか、もう止めるかという選択も迫られ、その後も次々に選択肢を示されます。 

本人の意識がない場合は、どう思っているだろうか?こうして寝たきりでも生きていたいだろうか?幸せだろうか?今ここで止めるという選択をすると、自分が命を止めてしまうが、それで良いのか?ずっと葛藤は続きます。どう決定しても、もっと良い方法があったか?と延々と苦悩は続きます。

自分の命は、誰のものか?どう終えたいのか?どうするのが本人とみんなの幸せか?という基準をしっかりと家族や周りの方々と話し合っておくと、家族の意思も統一されて自信を持って対応できます。愛する家族の死はとても辛いですが、話し合いをして本人の希望どおりに見送った時は、辛い中にも満足感があります。命の話し合いをしましょう。

次回は、よしこおばあちゃんの病棟の別の部屋の様子が見えてしまいます。

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