延命治療とは12 人工呼吸器

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって、口から食べらなくなりました。本人は、「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で鼻チューブを経て、胃ろうを施されています。 今回は、よしこおばあちゃんの介護施設でのお話をします。

その日は、施設へ業者が入っての大掃除が行われていました。普段は、各部屋にいらっしゃる方々が食堂に集められていました。30人位はいらしゃるのですが、話し声はありません。シュポーンシュポ^-ンという機械の空気を送る様な音のみの静かな空間です。よく見ると、気管切開・人工呼吸器を施された意思表示のできない方々でした。

呼吸機能が低下または停止して呼吸困難になったら、これを改善するため、気管挿管されます。麻酔をして 口や鼻から気管へ管を通して固定し、気道を確保します。 手動のバッグや人工呼吸器で呼吸を助けます。 若い方も全身麻酔での手術する時にも使われますが、手術後外されます。メリットとして、呼吸が維持されます。しかし、意識レベルが落ちているとはいえ、口や鼻から管が入れられていると苦痛です。また別のデメリットとして ●声が出しにくくなる ●歯の損傷のおそれがある ●口から食事はとれない。また、口の中に管が通っているため、 歯磨きなどの口腔ケアをしにくいため、肺炎になるリスクがあるなどです。概ね2週間位を超えて、まだ人工呼吸による呼吸の補助が必要な場合は、気管切開に切り替えられます。⇒自分で呼吸ができるようになれば、やめることができます。

気管切開・人工呼吸器は、気管に穴を開けて管を通し 人工呼吸器につなげます。 発声できなくなることがあります。 管を1~2週間毎とか一定の期間で交換します。その交換時には苦しそうにむせるケースがほとんどです。想像してみてください。我々も食事の際、少し食べ物が気管に入っても苦しいですよね。そして、一日に数回痰吸引します。メリットとしては、●楽に呼吸ができる●唾液が気管に流れ込むのを防げる。●口腔ケアができる。があります。 デメリットとしては、 ●人工物が気管内に入っているので、感染や潰瘍、出血などの可能性がある。●医療的ケアが必要になる。⇒自分で呼吸や飲み込みができるようになれば、やめることができます。 止めると管を通していた穴は自然と塞がりますが、そうでない場合は縫合します。 とはいえ、終末期の場合は、自分で呼吸ができるようになるのは難しい場合が多く、医師の判断だけで人工呼吸器を外してしまうと呼吸が止まる可能性が高いため、殺人罪に問われる可能性もあるので、一旦装着すると外せません。装着後、治療が済んで症状が落ち着いてくると、退院となります。自宅介護ができれば良いですが、多くの場合、転院するか、介護施設に移ることになります。

ということで、ここにこうして集まっていらっしゃるのです。

この方たちは、お幸せでしょうか。治って、元の暮らしに戻れるでしょうか?もし、愛するご家族が、意思表示もできずにここに寝ているとしたら、いかがですか?もし、あなたが、この中のお一人として、何もできずにただ横たわっていると想像するとどんな気持ちでしょうか?それでも、長生きしたいでしょうか?決断を迫られる日は突然やってきますよ。

いざとなった時、後悔のない対応ができるように家族間でしっかりと命の話し合いをしてくださいね。

延命治療とは11 拘縮

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって、口から食べらなくなりました。本人は、「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で鼻チューブを経て、胃ろうを施されました。口からごっくんと飲み込みはできないけど、胃腸はちゃんと動くので、胃へ栄養を直接入れると、消化吸収し、一旦は元気になったと前回お話しました。このまま元気で幸せな日々がいつまでも続くと良いですね?! 今回は、その後をお話します。

胃ろう造設から2年、97歳になったよしこおばあちゃんは、だんだん寝ている時間が長くなり、ついに起きられなくなってしまいました。ひ孫が、「お願い!起きて。ひいおばあちゃん」と泣きながら、おばあちゃんを揺すりますが、反応はありません。このひ孫のセリフが1部の題になっています。

そして、よしこひいおばあちゃんの長男の妻つまり、おばあちゃんも「お母さん、みんな来てくれたよ。誰だか分かる?」と声を掛けますが、もちろん返事はありません。最期の時まで声は聞こえていると言いますが、よしこおばあちゃんも意思表示ができないだけで、聞こえているのでしょうか?

家族は、胃ろうをすれば、ずっと元気でいてくれると思っていたので、とっても悲しく、みんな泣いています。

それから1年経ち、98歳。ずっと寝たきりで動かないので、手も足も、だんだん筋肉は萎縮して関節が固まって動かせない拘縮という状態になります。手足の関節が固まると着替えが難しくなり、股関節が固まると、オムツを変えるのも大変です。ひ孫18歳は、「ねえひいおばあちゃん、幸せなの?そんなに頑張らなくても良いよ。」と泣きます。アラフィフのは、「あの時、おばあちゃんが望んだとおりにしてあげれば良かった!」と後悔にさいなまれます。長男の妻70代は、「長生きの喜びもないこんな姿になるなんて。」と辛さに堪えるのに必死です。長男も涙こそ見せませんが、もちろん辛い後悔の日々です。

筆者は、高齢者にはもう少し間がありますが、パソコン作業などで、長時間ずっと同じ姿勢でいて、立ち上がろうとした時に、筋肉と関節によいしょと力を入れて立ち上がるようになりました。グルコサミンと運動が必要ですね。まあ、私の話は良いのですが、病気やけがで何日か寝ていると、筋肉が瘦せた気がしますよね。骨折してギブスで固定し、外れた時、骨はついても筋肉は痩せて、リハビリしますよね。若い人でも動かさないと筋肉は痩せます。高齢者となって長くなった方が寝たきりとなり、体を動かさないと筋肉はやせて、関節が硬くなるのは明らかなことです。

よしこおばあちゃんは、この後もまだまだ頑張りますが、いずれはその時を迎えます。拘縮して丸く固まってしまった体はまっすぐ横にはなれません。に入る時、ちゃんと入れるでしょうか?上を向けるでしょうか?ふたが閉められるでしょうか?もう、亡くなっているとは言え、悲しい現実があります。

筆者が、セミナーでお話していると、受講者さまのお一人が、「私の母は胃瘻から少し経つと、意識もなくなって拘縮し、床ずれに苦しみながら13年間頑張りました。無理やり生かしている尊厳も無い状態に後悔ばかりの辛い13年間で、亡くなった時は、『やっと楽になったね。』とホットしました。」とおっしゃいました。

あなたがこのお母さまの立場だったら、また、この受講者さまの立場だったらどうでしょうか?いざとなった時、後悔のない対応ができるように家族間でしっかりと命の話し合いをしてくださいね。

よしこおばあちゃんは、この後どうなるでしょうか?続きは次回ということにします。

延命治療とは10 胃ろう日英比較

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

前回は、老衰状態になったよしこおばあちゃんの病棟の別の部屋の方の延命治療のお話でした。

元気になって日常生活に戻っていける方にとっては、普通の治療ですが、ここは、老衰期の方ばかり。治るためなら苦しい治療も必要ですが、もう意思表示もできない状態で長生きすることを、この方たちは望んでいたのでしょうか?そして、長生きできてお幸せなのでしょうか?

さて、鼻チューブを引き抜いたよしこおばあちゃんは、危険を回避するために、医師の意見を取り入れたご家族のご要望で、胃ろうを施されました。ご家族は、医師の提案どおりにすると、ずっと病院で面倒をみてくれるのかと思っていましたが、そうはいきませんよね。治療が済んで、症状が落ち着くと退院しなければなりません。自宅に連れて帰ってあげたかったけれど、ご家族それぞれに事情があります。よしこおばあちゃんが95歳ということは、その息子夫婦は70代。世にいう老々介護。70代は足腰が痛いし、持病もあります。その娘はアラフィフで、子育ては落ち着いてきていますが、夫の両親のお世話もしています。という訳で、よしこおばあちゃんは、高齢者施設でお世話になることになりました。

介護施設に移ったおばあちゃんは、口からは食べられないけれど、直接胃に高カロリーの栄養を補給できるので、すごく調子よくなり、髪も顔も艶々、栄養満点です。

家族は、「おばあちゃん、元気になってくれて嬉しいわ。」と言いますが、おばあちゃんは、笑顔の中にも悲しさが見え隠れします。「口から食べられないから、味気ないんだよ。」とボソッと言いました。

医師は、説明の時、「一旦胃瘻をしても、訓練でまた口から食べられるようになる可能性もあります。」と言いました。

実際、50代後半の男性が、脳梗塞になり、そこを乗り越えるために、呼吸は気管切開で人工呼吸器、栄養は胃瘻を施された方がいらっしゃいました。50代ならまだまだ体力がありますよね。脳梗塞が落ち着き、リハビリを経て、呼吸器も胃瘻も外れ、普通の生活に戻った方もいらっしゃいます。

超高齢になると、口から食べると誤嚥といって、誤って食べ物が気管に入って肺炎になるという誤嚥性肺炎やゴクンと飲み込みができないという問題が起こってきます。その解決策として、口を通さずに直接胃に栄養を入れる方法がとられる訳です。今コロナ禍で、人と会って話したり外食したりするのを自粛していますよね。喉も使わずにいると若い方でも機能が弱ってくるので、要注意です。あいうべ体操が良いと言われます。やってみてください。

厚労省の資料に胃ろう造設の日英比較が、 中医協総-2 25年12月11日の資料P33~34に掲載されています。

まず、胃瘻の100万人当たりの造設数はわが国ではイギリスの10倍以上ですし、70歳以上の割合はイギリスの2倍。また、胃瘻造設の原因疾患は、イギリスでは中枢神経疾患、精神疾患・がんが多いのですが、日本においては、誤嚥性肺炎、脳血管疾患、脱水・低栄養、認知症など高齢を理由とする疾患が多くなっています。ご興味がお有りの方は次の項目をクリックしてご覧ください。P33~34です。

Microsoft PowerPoint – ②総-2 個別事項(その6:明細書発行、技術的事項 (mhlw.go.jp)

さて、よしこおばあちゃんですが、95歳。胃ろうを外せる可能性がどのくらいあるのでしょうか?

今回は、よしこおばあちゃんが鼻チューブを引き抜いた後、胃瘻を施され、元気になった様子でした。このまま元気で幸せな日々がいつまでも続くのでしょうか?続きは次回ということにします。