延命治療とは16 ピンピンコロリ

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって口から食べられなくなりました。本人は「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で胃ろうを施されました。3年を過ぎると意識もなく手足が拘縮してしまい、その状態で5年間がんばって103歳で旅立ちました。 

よしこおばあちゃんの家族は考えます。『ひいおばあちゃんがこんなことになるまで、人生のゴールの仕方について考えたことはなかったね。 どんなゴールが最も幸せかしら ピンピンころり(PPK)? そもそも、ピンピンころりって何? 』と。

今回は、ppkについて考えてみましょう。多くの方は、『90歳を過ぎても畑仕事ができる程元気に暮らしていて、倒れて1週間、家族に囲まれて、自然に畳の上で旅立つ。』これが理想の旅立ちppkというイメージをお持ちではないでしょうか?

よしこおばあちゃんの家族もそのイメージで、「お隣のいつも元気だったけいこおばあちゃんの旅立ちがppkではないかしら。」と話します。

それでは、理想的な旅立ちピンピンコロリ(ppk)編です。/

93歳のけい子おばあちゃん 毎日、元気に畑仕事。「次は何を植えようかなあ~。」と独り言。その日も近所のお友達のお宅で楽しくおしゃべり。その夕方、帰宅し、突然倒れました。

さて、けいこおばあちゃんの運命や如何に?よしこおばあちゃんと同じ運命をたどるのでしょうか?

いいえ、けい子おばあちゃんは、いつも、ご家族やご親族・お友だちに、こう言っていました。

お医者さんは、救急車で運ばれた患者さんの命をあらゆる手段で助けるのが仕事なのよ。もし私を見て、『もう無理だ』と感じられる時は、救急車を呼ばずに、かかりつけ医に連絡してちょうだい。最期は自宅で迎えたいの。延命治療は絶対にお断りよ。苦しい時間を引き延ばすだけだから。最期まで私らしく、尊厳のある状態でいたいの。」

いろんなご意見がおありでしょうが、これは、けい子おばあちゃんの想いです。

そして、けいこおばあちゃんは、家族みんなに見送られていつもお世話になっているかかりつけ医に看取っていただきました。微笑んでいるような幸せな旅立ちでした。

「けい子おばあちゃんが急に旅立ったのは悲しいけれど、おばあちゃんが望んだとおりのおばあちゃんらしい旅立ちができて本当に良かったね。」と家族は、満足のご様子でした。

よしこおばあちゃんの家族は考えます。「隣のけい子おばあちゃんの様に自分の望む旅立ちができたら良いね。もう治る見込みもなくなり、旅立ちを待つばかりの状態となった時、悲しみを先送りにすると、私たちみたいに本人も家族も長い間、本当に辛い思いをすることになるよね。私たちの望む尊厳のあるゴールを迎えるためには、あらかじめ、意思表示をしておくことが必要ね。」と話し合いました。

命は誰のものでしょうか?本人のもの?家族のもの? 

よしこおばあちゃんの場合は、いざその時になって希望を伝えましたが、本人の希望より「生きていてほしい。」という家族の思いを優先した結果、苦しい年月を引き延ばす結果となったのです。

けいこおばあちゃんは、前々から自分の意思を周りの皆に話して、理解してもらっていたので、自分の思い描くゴールを迎えられたのでした。

ゴールの仕方は人それぞれ。満足のいくものにしたいですよね。その具体的な方法については、次回ということにします。是非ご覧ください。

延命治療とは15  ACP

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって、口から食べられなくなりました。本人は、「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で胃ろうを施され、一旦は元気になったものの、3年を過ぎると、意識もなく手足が拘縮してしまいました。7年を過ぎた頃、お世話をしていた長男の妻が夜中に突然死し、家族は悲しみにくれます。そんな中、よしこおばあちゃんも弱ってきて、医師からの治療方針についての確認がありました。

今回は、そのお話しです。「もし、呼吸が苦しくなったら人工呼吸をしますか?もし、心臓が止まったら、心臓マッサージ等の心肺蘇生をしますか?」と医師は尋ねます。家族3人は「絶対しません。」と言います。よしこおばあちゃんの人として尊厳のない悲しい姿に、医師や介護スタッフに「胃ろうを外してください。」とお願いしていたのですから当然の感情です。しかし、医師としては、患者や家族に定期的に治療方針についての意思確認を行う必要があります。その時々の状態により、意思が揺らぐこともありますし、判断が変わることもあります。こんなはずではなかったということがあってはいけませんから、医療介護スタッフ本人家族と一緒に話し合いの場を設けて、内容を記録するのです。

国もACP(アドバンス・ケア・プランニング)人生会議として

「人生の最終段階における医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合う取り組み」の普及啓発を進めています。

これは、厚生労働省のACPのリーフレットです。紹介します。

あなたは、「もしものこと」を 考えたことがありますか? (mhlw.go.jp)

『誰でも、いつでも命に関わる大きな病気やケガをする 可能性があります。 命の危険が迫った状態になると、約70%の方が、医療やケアなどを自分で決めたり、望みを人に伝えたりすることができなくなると言われています。 自らが希望する医療やケアを受けるために 大切にしていることや望んでいること、 どこでどのような医療やケアを望むかを自分自身で前もって考え、周囲の信頼する人たちと話し合い、共有することが重要です。』とあります。

よしこおばあちゃんは徐々に弱っていきますが、突然決断を迫られまる場合も多いです。生きていてほしいと思い悩みますが、その時、後悔のない対応ができるように家族間でしっかりと人生会議をしてくださいね。「命の話し合いをしましょう。」と重々しく切り出すのでなく、「今の世の中、何が起こるか分からないよね~。」と軽い感じで始めると話しやすいと思いますよ。

さて、よしこおばあちゃんは、胃ろうから8年、103歳で旅立ちました。ひ孫23歳は、「ひいおばあちゃん、長い間、辛い想いをさせてごめんね。やっと楽になったね。」と泣きます。

よしこおばあちゃんは、8年ですが、私が聞いた一番長い方は13年間です。「意思表示もできずにただ息をしていて、床ずれに苦しめられ13年間。ずっと後悔の苦しい年月が続き、亡くなった時は、いけないことだけど、これで母も私も苦しみから解放されるとホッとしました。」とおっしゃいました。

よしこおばあちゃんの家族は、考えます。『ひいおばあちゃんがこんなことになるまで、人生のゴールの仕方について考えたことはなかったね。 どんなゴールが最も幸せかしら ピンピンころり(PPK)?そもそも、ピンピンころりって何? 』と。その、PPKについては、次回ということにします。 是非、ご覧ください。

タイタニックとコロナ禍の日本

先日、タイタニックの映画をテレビで見ました。なんだかいろんなことを考えました。

豪華客船 イメージ  映画タイタニックとは無関係
  1. ○子さまのご心情
  2. セウォル号の高校生
  3. 優先順位 

1・2については今回差し控えますが、 3は今のわが国の状況と重なること

「自分だけは」とのパニック状態 いつの世も変わらないのですね。

映画では、救命ボートに乗れる優先順位は、まず、「女性と子ども」でした。 

今、日本の船でこれが起こると、どのような優先順位になるのでしょうか。

男女差別はあってはならない

高齢者優先

既往症のある人優先

生き残ったのは、この条件に当てはまる方ばかり

元気な子ども・現役世代はすべて死亡。なんてことに

生き残った方々、この後どうやって生きていくのでしょうか?

失礼! 船と病気を一緒くたに考えてしまいました。船と病気では、優先順位は違うでしょう。

感染者数が急増している地域では、

療養ホテルに入れない

もちろん入院も順番が来ない

エクモ(人工肺装置)も数に限りがある

医療崩壊している病院では、トリアージ(命の選択)が行われていると聞きます。

トリアージとは、災害発生時などに多数の傷病者が発生した場合に、現存する限られた医療スタッフや医薬品等の医療機能を最大限に活用して、可能な限り多数の傷病者の治療にあたる必要があるため、傷病の緊急度や重症度に応じて治療優先度を決めることです。

集中治療を譲る意志カード(若い人に譲る)が、大阪大学人間科学研究科未来共創センター招聘教授循環器科医師 石蔵文信氏によって作成されています。

プリント (eco-powerplant.com)

日本原子力発電所協会

ワクチン接種予約は、我先にと混乱が起きています。

当初は、高齢者が感染しやすく既往症があれば特に重症化しやすいということでしたが、今の変異種は、若い人・子ども・既往症無しでも感染し重症化する方もあります。

老いも若きもいろんな不安を抱えています。

申し込みが集中することで、受付側も混乱します。

私の母は、「社会生活維持の仕事で出勤せざるを得ない現役世代に先に打ってほしい。」と申します。

これから、ワクチンの供給量もどんどん増えてきます。日本製のワクチンも治験が始まっています。

タイタニックと違い、おとなしく待っていれば助かるのです。むやみに不安を抱かず、まずは落ち着いた予防生活を心掛けたいと思います。

「来年の今頃は、コロナ禍 大変だったね~。」と、言っていることでしょう。

延命治療とは14 親の介護で失うもの

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって、口から食べられなくなりました。本人は、「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で胃ろうを施され、一旦は元気になったものの、3年を過ぎると、意識もなく手足が拘縮してしまいました。 

今回は、よしこおばあちゃん102歳、胃ろうから7年の話です。ずっとよしこおばあちゃんのお世話をしていた長男の妻であるあばあちゃんが、突然旅立ちました。夜中にトイレで倒れていたのです

家族は悲しく、ひ孫が言います。「何のためにひいおばあちゃんを長生きさせているの?おばあちゃんの命を縮めることになったのかもね。おばあちゃんは幸せだったかなあ?」。介護施設にお願いしているとは言え、おばあちゃんも後期高齢者。洗濯物のお世話とかで施設へ行ったり来たり、心身共に負担が大きかったのかも知れません。

ちなみに、厚生労働省の資料によると、平均寿命は、戦後の1947(昭和22)年 男性 50.06歳、女性 53.96歳でした。あれから73年。2020年7月31日に厚生労働省が発表した2019年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳。と70年で30年以上平均寿命が延びたのです。

それに対して2016年厚生労働省発表の健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳でその差である 健康上の都合で生活に支障がある期間は、男性9.27年、女性12.66年。この数字はあくまで平均値です。生活に支障と言っても、最初から要介護という訳ではない人も多いでしょうが、この期間は、本人も介護者もしんどい訳です。子育ては、何歳になればどの位成長するか、大体の予想がつきます。それでも大変なんですが、介護では、これがいつまで続くか分からないという不安があるのです。

そもそも、動物には、子の面倒はみても、親の老後をみるというDNAは無いそうです。命のバトンタッチが終われば、役目は終わりで、孫ができるまで生きていない種が多く、孫の世話をするのは人間とまっこうくじら・シャチ・象位だそうです。それも人間以外は介護もしません。

70年前「人生50年」と言われた頃は、介護が必要になるまで生きなかったのです。だんだん寿命が延びてきて下り坂が長くなっているのです。そして、介護保険制度ができたのが2000年。当初の要介護者数は、218万人、2020年3月末668万人と20年で約3倍になっています。実際、私も20年前はまだ若かったし、介護者の方にお会いすることは少なくて、介護者家族の会なども殆どなく、数少ない介護者同士が出会うと「介護は大変だ」と話をしているイメージでした。今の私、親の介護真っただ中の世代になり、友人と会うと親の介護の話ばかりです。そのくらい介護が当たり前となっているのです。

「親の介護」には子供の「時間」「気力」「体力」「お金」が必要です。しかも長生きするので、介護も老々介護。この絵本のよしこおばあちゃんの長男の妻も後期高齢者。よしこおばあちゃんを無理やり生かしている心労が積み重なっていたと言っても過言ではない状態でした。

よしこおばあちゃんの願いはどうだったでしょうか?そして、家族の心労は延々と続きます。この家族は、どこでボタンを掛け違えたのでしょうか?逝く人も遺る人も幸せな人生を歩みたいです。

決断は突然迫られます。生きていてほしいと思い悩みますが、その時、後悔のない対応ができるように家族間でしっかりと命の話し合いをしてくださいね。

延命治療とは13 安楽死

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって、口から食べられなくなりました。本人は、「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で胃ろうを施され、一旦は元気になったものの、3年過ぎると、意識もなく手足が拘縮しています。 今回は、よしこおばあちゃんの家族のお話をします。

今、家族は、あの時、生きていてほしいと胃ろうを選択したことを後悔してもしきれない状態です。面会に行ってもおばあちゃんの意識はないので、何の反応もありません。手足は拘縮して尊厳のない姿になっています。おばあちゃんは、どう思っているでしょうか?ずっと寝たままのこの状態。家族は、辛くて申し訳なさすぎて、施設への足も遠のきがちです。

それでも、家族は話し合いをし、意を決して、施設側へ相談を持ち掛けます。医師とケアマネジャーと家族での話し合いの場を設けていただきました。丁寧にお世話をしていただいているので、言いにくいのですが、「無理やり生かされている今の状態は見るに忍びないので、胃ろうを外してほしいのです。」とよしこおばあちゃんの長男であるおじいちゃんが切り出します。医師は、「一旦、胃ろうを付けてしまうと、人道的な問題やいろんな問題があり、外すのは大変難しいのです。」と言いました。

どうして外してくれないのでしょうか?

それは、簡単に言うと、外すと生命を維持できなくなり患者は死亡しますので、安楽死として殺人罪に問われるかも知れないからです。それでは、安楽死について考えてみましょう。

安楽死には2 種類あります。1.積極的安楽死いわゆる安楽死と2.消極的安楽死いわゆる尊厳死です。1.安楽死は、医師などが薬物などを使って患者の死期を積極的に早めること。 2.尊厳死は、延命治療をせずに自然死を迎えること。日本での法律に照らすと1.積極的安楽死は違法です。

2006年射水(イミズ)市民病院事件が公表されました。ある医師が、本人或いは家族に依頼されて末期患者の人口呼吸器を外したのです。家族も被害者意識がなく、人工呼吸器取り外しと死亡の因果関係が十分に証明できないために不起訴処分となりました。この事件をきっかけに,延命治療中止を含めた終末期医療全般の倫理的なあり方に関して社会的に議論が進み,これまで厚生労働省や日本救急医学会,日本老年医学会など,関連機関・学会がガイドラインを公表してきました。

これらのガイドラインを遵守して,患者や家族等を交えた関係者による慎重な決定プロセスを踏んだ結果として行われるなら,倫理的に正当であり,殺人罪に問われる可能性は低いのです。

日本では延命治療の中止や差し控えについて,医師の刑事責任の免責基準を明確に示した法律は今のところありません。また,これまでいくつかの延命治療中止の事例が刑事事件化してきました。そのため,医療現場では,たとえ患者本人や家族が中止の意思を示していても,「治療中止は殺人罪に問われるのではないか」という懸念があるという訳です。

いざとなると、生きていてほしい、もしかしたらまた元気になってくれるかもと思い悩みますが、迷ったら自分がしてほしいように対応したいものです。その時、後悔のない対応ができるように家族間でしっかりと命の話し合いをしてくださいね。

よしこおばあちゃんは、この後どうなるでしょうか?続きは次回ということにします。是非ご覧ください。

延命治療とは12 人工呼吸器

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって、口から食べらなくなりました。本人は、「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で鼻チューブを経て、胃ろうを施されています。 今回は、よしこおばあちゃんの介護施設でのお話をします。

その日は、施設へ業者が入っての大掃除が行われていました。普段は、各部屋にいらっしゃる方々が食堂に集められていました。30人位はいらしゃるのですが、話し声はありません。シュポーンシュポ^-ンという機械の空気を送る様な音のみの静かな空間です。よく見ると、気管切開・人工呼吸器を施された意思表示のできない方々でした。

呼吸機能が低下または停止して呼吸困難になったら、これを改善するため、気管挿管されます。麻酔をして 口や鼻から気管へ管を通して固定し、気道を確保します。 手動のバッグや人工呼吸器で呼吸を助けます。 若い方も全身麻酔での手術する時にも使われますが、手術後外されます。メリットとして、呼吸が維持されます。しかし、意識レベルが落ちているとはいえ、口や鼻から管が入れられていると苦痛です。また別のデメリットとして ●声が出しにくくなる ●歯の損傷のおそれがある ●口から食事はとれない。また、口の中に管が通っているため、 歯磨きなどの口腔ケアをしにくいため、肺炎になるリスクがあるなどです。概ね2週間位を超えて、まだ人工呼吸による呼吸の補助が必要な場合は、気管切開に切り替えられます。⇒自分で呼吸ができるようになれば、やめることができます。

気管切開・人工呼吸器は、気管に穴を開けて管を通し 人工呼吸器につなげます。 発声できなくなることがあります。 管を1~2週間毎とか一定の期間で交換します。その交換時には苦しそうにむせるケースがほとんどです。想像してみてください。我々も食事の際、少し食べ物が気管に入っても苦しいですよね。そして、一日に数回痰吸引します。メリットとしては、●楽に呼吸ができる●唾液が気管に流れ込むのを防げる。●口腔ケアができる。があります。 デメリットとしては、 ●人工物が気管内に入っているので、感染や潰瘍、出血などの可能性がある。●医療的ケアが必要になる。⇒自分で呼吸や飲み込みができるようになれば、やめることができます。 止めると管を通していた穴は自然と塞がりますが、そうでない場合は縫合します。 とはいえ、終末期の場合は、自分で呼吸ができるようになるのは難しい場合が多く、医師の判断だけで人工呼吸器を外してしまうと呼吸が止まる可能性が高いため、殺人罪に問われる可能性もあるので、一旦装着すると外せません。装着後、治療が済んで症状が落ち着いてくると、退院となります。自宅介護ができれば良いですが、多くの場合、転院するか、介護施設に移ることになります。

ということで、ここにこうして集まっていらっしゃるのです。

この方たちは、お幸せでしょうか。治って、元の暮らしに戻れるでしょうか?もし、愛するご家族が、意思表示もできずにここに寝ているとしたら、いかがですか?もし、あなたが、この中のお一人として、何もできずにただ横たわっていると想像するとどんな気持ちでしょうか?それでも、長生きしたいでしょうか?決断を迫られる日は突然やってきますよ。

いざとなった時、後悔のない対応ができるように家族間でしっかりと命の話し合いをしてくださいね。

延命治療とは11 拘縮

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、いろんな方の体験を組み合わせて延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

主人公のよしこおばあちゃんは、ずっと元気だったけれど、95歳で老衰状態になって、口から食べらなくなりました。本人は、「自然のままにさせて」と言ったけれど、ご家族の意向で鼻チューブを経て、胃ろうを施されました。口からごっくんと飲み込みはできないけど、胃腸はちゃんと動くので、胃へ栄養を直接入れると、消化吸収し、一旦は元気になったと前回お話しました。このまま元気で幸せな日々がいつまでも続くと良いですね?! 今回は、その後をお話します。

胃ろう造設から2年、97歳になったよしこおばあちゃんは、だんだん寝ている時間が長くなり、ついに起きられなくなってしまいました。ひ孫が、「お願い!起きて。ひいおばあちゃん」と泣きながら、おばあちゃんを揺すりますが、反応はありません。このひ孫のセリフが1部の題になっています。

そして、よしこひいおばあちゃんの長男の妻つまり、おばあちゃんも「お母さん、みんな来てくれたよ。誰だか分かる?」と声を掛けますが、もちろん返事はありません。最期の時まで声は聞こえていると言いますが、よしこおばあちゃんも意思表示ができないだけで、聞こえているのでしょうか?

家族は、胃ろうをすれば、ずっと元気でいてくれると思っていたので、とっても悲しく、みんな泣いています。

それから1年経ち、98歳。ずっと寝たきりで動かないので、手も足も、だんだん筋肉は萎縮して関節が固まって動かせない拘縮という状態になります。手足の関節が固まると着替えが難しくなり、股関節が固まると、オムツを変えるのも大変です。ひ孫18歳は、「ねえひいおばあちゃん、幸せなの?そんなに頑張らなくても良いよ。」と泣きます。アラフィフのは、「あの時、おばあちゃんが望んだとおりにしてあげれば良かった!」と後悔にさいなまれます。長男の妻70代は、「長生きの喜びもないこんな姿になるなんて。」と辛さに堪えるのに必死です。長男も涙こそ見せませんが、もちろん辛い後悔の日々です。

筆者は、高齢者にはもう少し間がありますが、パソコン作業などで、長時間ずっと同じ姿勢でいて、立ち上がろうとした時に、筋肉と関節によいしょと力を入れて立ち上がるようになりました。グルコサミンと運動が必要ですね。まあ、私の話は良いのですが、病気やけがで何日か寝ていると、筋肉が瘦せた気がしますよね。骨折してギブスで固定し、外れた時、骨はついても筋肉は痩せて、リハビリしますよね。若い人でも動かさないと筋肉は痩せます。高齢者となって長くなった方が寝たきりとなり、体を動かさないと筋肉はやせて、関節が硬くなるのは明らかなことです。

よしこおばあちゃんは、この後もまだまだ頑張りますが、いずれはその時を迎えます。拘縮して丸く固まってしまった体はまっすぐ横にはなれません。に入る時、ちゃんと入れるでしょうか?上を向けるでしょうか?ふたが閉められるでしょうか?もう、亡くなっているとは言え、悲しい現実があります。

筆者が、セミナーでお話していると、受講者さまのお一人が、「私の母は胃瘻から少し経つと、意識もなくなって拘縮し、床ずれに苦しみながら13年間頑張りました。無理やり生かしている尊厳も無い状態に後悔ばかりの辛い13年間で、亡くなった時は、『やっと楽になったね。』とホットしました。」とおっしゃいました。

あなたがこのお母さまの立場だったら、また、この受講者さまの立場だったらどうでしょうか?いざとなった時、後悔のない対応ができるように家族間でしっかりと命の話し合いをしてくださいね。

よしこおばあちゃんは、この後どうなるでしょうか?続きは次回ということにします。

延命治療とは10 胃ろう日英比較

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

前回は、老衰状態になったよしこおばあちゃんの病棟の別の部屋の方の延命治療のお話でした。

元気になって日常生活に戻っていける方にとっては、普通の治療ですが、ここは、老衰期の方ばかり。治るためなら苦しい治療も必要ですが、もう意思表示もできない状態で長生きすることを、この方たちは望んでいたのでしょうか?そして、長生きできてお幸せなのでしょうか?

さて、鼻チューブを引き抜いたよしこおばあちゃんは、危険を回避するために、医師の意見を取り入れたご家族のご要望で、胃ろうを施されました。ご家族は、医師の提案どおりにすると、ずっと病院で面倒をみてくれるのかと思っていましたが、そうはいきませんよね。治療が済んで、症状が落ち着くと退院しなければなりません。自宅に連れて帰ってあげたかったけれど、ご家族それぞれに事情があります。よしこおばあちゃんが95歳ということは、その息子夫婦は70代。世にいう老々介護。70代は足腰が痛いし、持病もあります。その娘はアラフィフで、子育ては落ち着いてきていますが、夫の両親のお世話もしています。という訳で、よしこおばあちゃんは、高齢者施設でお世話になることになりました。

介護施設に移ったおばあちゃんは、口からは食べられないけれど、直接胃に高カロリーの栄養を補給できるので、すごく調子よくなり、髪も顔も艶々、栄養満点です。

家族は、「おばあちゃん、元気になってくれて嬉しいわ。」と言いますが、おばあちゃんは、笑顔の中にも悲しさが見え隠れします。「口から食べられないから、味気ないんだよ。」とボソッと言いました。

医師は、説明の時、「一旦胃瘻をしても、訓練でまた口から食べられるようになる可能性もあります。」と言いました。

実際、50代後半の男性が、脳梗塞になり、そこを乗り越えるために、呼吸は気管切開で人工呼吸器、栄養は胃瘻を施された方がいらっしゃいました。50代ならまだまだ体力がありますよね。脳梗塞が落ち着き、リハビリを経て、呼吸器も胃瘻も外れ、普通の生活に戻った方もいらっしゃいます。

超高齢になると、口から食べると誤嚥といって、誤って食べ物が気管に入って肺炎になるという誤嚥性肺炎やゴクンと飲み込みができないという問題が起こってきます。その解決策として、口を通さずに直接胃に栄養を入れる方法がとられる訳です。今コロナ禍で、人と会って話したり外食したりするのを自粛していますよね。喉も使わずにいると若い方でも機能が弱ってくるので、要注意です。あいうべ体操が良いと言われます。やってみてください。

厚労省の資料に胃ろう造設の日英比較が、 中医協総-2 25年12月11日の資料P33~34に掲載されています。

まず、胃瘻の100万人当たりの造設数はわが国ではイギリスの10倍以上ですし、70歳以上の割合はイギリスの2倍。また、胃瘻造設の原因疾患は、イギリスでは中枢神経疾患、精神疾患・がんが多いのですが、日本においては、誤嚥性肺炎、脳血管疾患、脱水・低栄養、認知症など高齢を理由とする疾患が多くなっています。ご興味がお有りの方は次の項目をクリックしてご覧ください。P33~34です。

Microsoft PowerPoint – ②総-2 個別事項(その6:明細書発行、技術的事項 (mhlw.go.jp)

さて、よしこおばあちゃんですが、95歳。胃ろうを外せる可能性がどのくらいあるのでしょうか?

今回は、よしこおばあちゃんが鼻チューブを引き抜いた後、胃瘻を施され、元気になった様子でした。このまま元気で幸せな日々がいつまでも続くのでしょうか?続きは次回ということにします。

延命治療とは9 心肺蘇生

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

今回も前回に引き続き、老衰状態になったよしこおばあちゃんの病棟の別の部屋の方の治療のお話です。

老衰期に見える方ばかりがいらっしゃる病棟です。いつ何が起こるか分からないので、多くの部屋のドアは開いていて、中の様子が見えています。

今回は、心肺蘇生の様子です。心肺蘇生とは、呼吸も心臓も止まった時等、心臓マッサージや人工呼吸、AEDの組み合わせで心肺機能を復活させたり、補助したりする方法です。

以前、救命講習を受講しました。倒れている方を見つけた時は、まず「大丈夫ですか?」とか声かけをしながら、肩の辺りを優しくたたき、意識の有無を確認します。意識があるなら、症状を聞きますが、反応が無い場合は助けを呼びます。次に呼吸しているか確認して呼吸していないようなら、心臓マッサージ30回、気道確保して人工呼吸2回の割合ですると習いました。

(救命率)心臓が止まってから2分以内に心肺蘇生を開始出来れば、救命率は約90%と言われていますが、4分後では50%、5分後では25%程度に低下します。このように、心肺蘇生の開始時間が遅くなるほど救命率は低下します。救急隊が到着するまでの間に、その場に居合わせた人たちが適切な心肺蘇生を行えるかどうかが、救命率を大きく左右すると言えます。

心臓マッサージは、いったん止まった心臓をよみがえらせる応急処置です。(普段どおりの呼吸をしていない時は、心臓も止まっているとみなします。)テレビの医療番組で目にしたこともお有りでしょう。やり方としては、胸の真ん中を、重ねた両手で肘を真っすぐに伸ばして、手の付け根の部分にしっかり体重をかけて、胸が少なくとも5cm程度沈むまで、体全体で強く圧迫します。

気道確保・人工呼吸のやり方は、まず、傷病者の額に手をあて、頭を反らします。次に、顎の先端を指先で持ち上げ鼻をつまみ、対処者は口を大きく開き傷病者の口を覆います。そして、息を2回吹き込みます。約1秒ほど、胸が上がるのが見て分かる程度の量を吹き込みます。

AEDは、心室細動と言って心臓が細かく震えて血液を送り出せない不整脈の状態になった時、電気ショックを与えて、正常なリズムに戻す方法です。止まった心臓を再起動させるものではありません。使い方は、まず電源を入れます。すると、音声ガイダンスが始まりますので、そのとおりに操作します。電極パットを右胸の上部と左わき腹に水分や湿布などを取り除いてから貼ります。AEDが自動的に心電図を解析し、電気ショックが必要か診断します。電気ショックの指示が出たら、ショックボタンを押します。この時、自分や周りの人が感電しないよう患者から離れます。電気ショック後は、心臓マッサージをすぐにを再開します。AEDは2分ごとに電気ショックが必要か解析します。「ショック不要」との音声ガイダンスが流れた時は、心臓マッサージを続けます。

救急隊が到着するまで、心臓マッサージと人工呼吸、そしてAEDの使用を繰り返します。これで、助かって普通の生活に戻っていける方もたくさんいらっしゃいます。

しかし、ここは、老衰期の方ばかりです。80歳代後半を超えると、心肺停止後に救命処置をしても、元の状態にまで回復する方は非常に少ないのです。命を取り留めても、その間、脳に酸素が不足していて意識も回復せず、寝たきりになる方が多いのです。5センチも沈む程圧迫されて、高齢で弱ったあばら骨は何本も折れ、意識は無くても苦しそうにうめき声を上げる方もいらっしゃいます。 

あなたは、老衰期になって心肺停止したら、どうしてもらいたいですか?ご家族はいかがですか?日頃から話し合いをしておきましょう。

延命治療とは8 輸血・強力な抗生物質

こんにちは! 

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

いつもお話しますが、元気になって普通の生活に戻っていける人にとっては普通の治療でも、もう治る見込みもなく苦しい時間を引き延ばすだけの状態になった人への治療は延命治療です。

今回も前回に引き続き、老衰状態になったよしこおばあちゃんの病棟の別の部屋の方の治療の話です。

人生の最終段階の方ばかりの病棟なので、いろんなことが起こります。

ある部屋では、輸血が行われていました。 輸血は、病気や薬の影響などで十分に血液をつくることができなくなったり、事故や手術などで大量出血したに必要となり、たくさんの方の命を救います。ほとんどの輸血が安全に問題なく行われます。しかし、輸血は他人の血を自分の体に入れるわけですから、体質に合わなかったり、病気がうつってしまったりする可能性もあります。輸血中や輸血後すぐに症状の出る副作用ばかりでなく、輸血から数日後、数週間後、数年から20年30年後に問題になる副作用もあるそうです。比較的多い副作用として発熱やじんましんなどがあります。最もまれな反応としては、感染症や大量輸血の合併症(例えば、血液凝固不良、体温低下、カルシウムやカリウムの濃度低下)が出ることもあります。

しかし、ここは老衰期に見える方ばかりの病棟です。血液疾患や出血のみならず,慢性炎症など,さまざまな原因によって,吐血・下血等が起こり、貧血が進んで、輸血しても出血が止まらず、貧血が改善しない状態が起こり得ます。ゴールが近づいている患者さんにとって,いつまで輸血するのかという選択を迫られることになります。

また、別の部屋では、強力な抗生物質が使用されています。 終末期には抵抗力が落ちるので感染症を起こす可能性があります。 感染症が通常の抗生物質による治療で改善しない場合、より強力な抗生物質を使用することになります。  これには、薬の副作用や薬剤耐性菌誘導の恐れがあります。

私の実父の終末期も肝臓・膵臓・腎臓と次々に炎症が起こり、抗生物質を投与されました。点滴ラベルに表示されているその薬の名前を検索すると、『この薬で救える命がある。』等と説明があり、『かなり強力な抗生物質なんだな。』と知りました。その薬を入れると良くなりますが、またすぐに炎症が起こり、いたちごっこのようでした。父は、「苦しい時間を引き延ばすだけだから、もう止めてくれ。」と申しました。ここでも、いつまで投薬するかは、問題となってきます。

実際、医師は懸命の治療をしてくださいます。「今、こういう症状ですが、抗生物質を投与しますか?」と選択の機会を与えてくださいます。でも、その頃の私は、強力な抗生物質使用も延命治療になり得るとは考えていませんでした。その時は無我夢中で心に余裕もなく、見送った後、父の「もう止めて。」という言葉が心に残り、どういう対応がベターだったかといろいろと調べて、それをお知らせする活動を始めることになったのです。もちろん、これが、延命治療だという確定した治療はありません。その患者さんの状態やご家族の価値観により異なります。抗生物質のどこからが強力かという基準も人それぞれでしょう。

半世紀以上前は、自宅で命を見ていたので、こういうものだと判っている長老のリードがありました。現在社会は、生まれてくる時も旅立つ時も病院で、一般人は、その場面の経験がほとんどありません。

エンディングノート等を利用して、いろんな場面の最悪の状況を想像して、より良い対応にするために、お元気な今、ご家族や周りの方と命の話し合いをしておくことが重要です。