延命治療とは5 胃ろう

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成しました。

延命治療を事前に知って、ご家族で話し合いをすることにより、いずれ訪れるゴールを満足して迎えられるよう、YouTubeで説明絵本のお話をしています。

前回お医者さんから、充分な栄養が摂れる栄養補給について、3つの提案があり、(表を提示) 1.経鼻チューブ栄養、2.中心静脈栄養について説明しました。詳しくは、『延命治療とは3と4』をご覧ください。

今回は、3の胃ろうの説明をします。胃ろうは延命治療の代表のように言われますが、実際はどうでしょうか?

胃ろうは、元々、生まれつき、或いは病気・ケガにより、口から飲食できなくなった時のための栄養補給方法で、1980年代にアメリカで開発されて世界的に普及しました。

直接、胃に栄養を入れる栄養投与の方法で、内視鏡を使った手術により、胃からお腹表面に穴を開け、管を付けて固定し、栄養剤を入れます。 投薬もできます。

おなかに5~6mm程度の傷がつくだけで、出血もほとんど無く、15分程度で終ります。手術後は多少痛みますが、その後、痛みも和らぎ違和感もほとんど無くなります。

しっかり固定されていますので、抜ける心配もありません。また違和感も少なく、目立ちませんから患者さんが自分で抜く可能性は低く、他の栄養補給のように、手足を縛られるような苦痛もなくなりました。

そして、回復して口から十分に栄養が取れるようになったら、管は不要になりますから除去できます。

管を抜いた後、胃の粘膜は約3時間程で修復され、おなかの傷もほとんど目立たなくなります。

実際、脳卒中を発症して意識を失い、胃ろうをしていた人が、その後自分で食事を取れるまで回復して、胃ろうを除去して旅行もできる普通の生活に戻った方もいます。この場合、本人が意識を取り戻し、嚥下機能が改善するまでの間の「つなぎ」として行われていたことになります。

メリットとして、違和感が少ない。胃ろうをしていても、口からご飯を食べることができる。カテーテルが抜けにくい。入浴ができる。そして、鼻からのチューブなどに比べ、喉にチューブがないため、口から食べるリハビリや言語訓練が行いやすい等があげられます。とここまで、メリットだらけのようです。

でも、もちろんデメリットもあります。装着は簡単とはいえ、手術をしなければならない。唾液で誤嚥性肺炎になる可能性もある。栄養剤が逆流を起こす可能性がある。などです。そして、管は耐久性がある物が使用されていますが、異物であることに違いはありませんから、約半年に1度、管の交換の手術が必要です。

また、注意点としては、体をしっかり起こして栄養補給する。口腔ケアを徹底するということがあります。

それで、命が長らえることができるならお願いしたら良いと思うかもしれませんが、完璧ではありません。他の方法より違和感は少ないけれど、認知症が進行すると理解できずに引き抜く人もいらっしゃいます。

先ほどの例の方のように、回復して胃ろうを外せる方もいますが、 その一方で、 病状が回復せず、長期にわたって胃ろうを行う人がたくさんいらっしゃいます。意思疎通ができなくなって、今後もまったく回復の見込みがなく、ご家族も「もう楽にしてあげたい」と思っていても、胃ろうをしていることで人生を終えられないというケースがあるのも事実です。

私がお聞きしたケースでは、胃ろうをして13年間床ずれになりながら、意識もなく、頑張った方もいらっしゃって、お幸せだったかと心が痛いです。。

日本老年医学会は、「本人の尊厳を損なう恐れがある」として、高齢者における終末期の胃ろうについては、慎重に判断していくべきとの立場を表明しています。

最も大事なのは、「本人がどのように生きたいと思っているか」という点です。私は、散り際も人らしく自然な状態でいたいです。みなさん、お元気な今、命のゴールの話をしましょう。

ここまで3回、3つの栄養補給の説明をしました。よしこおばあちゃんは、どうなっていくでしょうか?それは、次回としますので、是非ご覧ください。

延命治療とは4 経静脈栄養

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療受診をどうしたいか意思表示をしようと呼び掛けています。

「これが延命治療だ」という確定した治療はありません。受ける方の状態や価値観によって異なりますので、延命治療になり得る治療について、お話しいています。

病気や手術などで一時的に口から食事が取れなくなったり、胃腸が機能がかなり下がっている場合に、人工的に水分や栄養を補給する人工栄養法をとる場合があり、

胃や腸を使う「経腸栄養」と、

血液に直接栄養を入れる「経静脈栄養」の2種類の方法があります。

前回は、私が作成した「桜のようにいきたい」からで、お医者さんから、充分な栄養が摂れる栄養補給について、3つの提案があり、経腸栄養の経鼻チューブ栄養について説明しました。

詳しくは、『延命治療とは3』をご覧ください。

そして、経静脈栄養には、

心臓に近い太い静脈を使う「中心静脈栄養」と、

手足など末梢の細い静脈に点滴をする「末梢静脈栄養」があります。

末梢静脈栄養については、『延命治療とは2』をご覧ください。

今回は、2の中心静脈栄養についてお話させていただきます。

中心静脈は、心臓に近いとても太い静脈で血流が多いため、高濃度・高カロリーの輸液を投与しても一瞬のうちに大量の血液で薄められ、血管への影響や体の副作用も少なく、1日約2,500キロカロリーまでの高濃度の栄養を投与できるので、十分なエネルギーの補給ができます。そして、症状が悪化した時には、栄養だけでなく薬剤投与なども容易に行うことができます。        

中心静脈栄養は、首や鎖骨下や大腿部の静脈から細いカテーテルを挿入し、カテーテルの先端を心臓近くの太い静脈まで進めて固定します。一度、このカテーテルを設置すると、数か月間使用できるので、末梢静脈栄養のように何度も針を刺して点滴する必要がなく、苦痛が少なくなります。

ここまで、良いことばかりのようですが、デメリットもあります。          カテーテルを挿入する際に局所麻酔によるショック、注射針による損傷などの合併症を引き起こすリスクがあります。                          

一般的にカテーテルは炎症を起こしにくい材質のものが使われていますが、患者によっては細菌感染を引き起こすおそれがあります。

充分な栄養補給ができるのは良いのですが、逆に高血糖になったり、長期的に使用すると脂肪肝などの代謝性合併症を引き起こす可能性もあります。            

ごくまれに、管が抜けることがあります。また、意識がある方は、不快感があるため、本人が引き抜く場合もあります。

また、コストが高いこともデメリットの一つです。食物を口から食べないため、口の筋肉や嚥下機能が衰えますので、導入中も口腔ケア嚥下機能の維持を心がけることが必要です。

導入後のリスクや経過の見込みを理解し、医師ともよく相談した上で、中心静脈栄養を行うかどうかを決めると良いでしょう。

ここまで、2の中心静脈栄養について説明しました。あと1つの栄養補給方法の説明は、次回お話することとします