延命治療とは7 人工透析

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、延命治療についてお話をしています。

この絵本は、たくさんの方の経験を組み合わせて1冊にまとめました。

前回、老衰状態になったよしこおばあちゃんが、鼻チューブを装着し、トラブルになったことについてお話しました。

今回は、よしこおばあちゃんの病棟の別の部屋の方の治療のお話です。

これは、絵本にはありませんが、私が父を見送る時の病棟で体験したことです。

老衰期に見える方ばかりがいらっしゃる病棟なので、いつ何が起こるか分かりません。多くの部屋のドアは開いていて、中の様子が見えてしまいます。

男性も女性もプライバシーはありません。天井を見つめるでもなく目はうつろで、口をポカーっと開け、起きているのか寝ているのかボーっとただ寝転んでいます。「生きているという実感はおありなのかなあ?」と赤の他人の私も辛くなります。もちろん、お見舞いに来ているご家族に会うこともありません。もう、長くこうしてお過ごしなんだろうと感じました。ドアの閉まっているお部屋もあって、時に「うわーっ」と叫び声も聞こえる時もあり、思わず耳を押さえました。この方たちは、お幸せなのでしょうか?

何度もお話しますが、同じ治療名でも、元気になって普通の生活に戻っていける人にとっては普通の治療ですが、もう治る見込みもなく苦しい時間を引き延ばすだけの状態になった人への治療は延命治療です。

さて、人生の最終段階の方ばかりの病棟なので、いろんなことが起こります。

まず今回は、人工透析です。腎臓だけが弱った人が、人工透析をして、普通にお仕事されている方もたくさんいらっしゃいます。現在、透析を受けている方は、30%が現役世代、60代~74歳までの方が35%、75歳以上の高齢者が35%だそうです。

終末期になると、複数の臓器の機能が弱ります。腎臓も同様に弱ります。その腎不全に対して腎臓の機能を機械に代行させる人工透析も行われます。血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする働きを腎臓に代わって人工的に行う治療法です。週2~3回、1回4時間と時間がかかります。また、治療で急激に血液がきれいになるので、気分が悪くなったりすることもあります。

また、費用の面も気になります。1ヶ月の透析治療の医療費は、患者一人につき30~50万円程度が必要といわれていますが、国内で透析治療を受ける場合、かかる費用は高額療養費の特例として1万円もしくは2万円の範囲内での自己負担になりますので、本人は心配ありませんが、みんなが拠出している健康保険全体で支えているということですね。

そして、一度始めた人工透析を止めるという選択は、=死ですから、生涯止めることはできません。

ここまで、人工透析の話をさせていただきました。

先日あるご相談がありました。「突然、母が倒れて、意識もありません。コロナで会いに行くこともできず、辛いです。終活を少し学び、延命治療を含む命の話をしましょうと習いましたが、実感もなくスルーしていた自分に後悔の日々です。母の気持ちを聞いていないし、今からどうしたら良いでしょうか?」というものです。

その時は、突然やってきます。命の話は、しにくいかも知れませんが、言い方・切り出し方を工夫するなどして、例えば、「今コロナでいつ誰がどうなるか分からないよね。」という話題から始めて「命をどうしたいか自分はこう思う。あなたは?」と話すというのはいかがでしょうか?これだと直接会わずに電話でも世間話の様にお話できますよね。変異種が出てきています。患者の数も増えて、身近に迫っている感じがしますね。これ以上先延ばしにせず、この年末年始是非、命の話をしてくださいね。

延命治療とは6 拘束手袋

私は、父の見送りから、命の尊厳を守るため、延命治療の説明絵本「桜のようにいきたい」を作成し、YouTubeで延命治療についてお話をしています。

前回老衰状態になった時の充分な栄養が摂れる3つの栄養補給についてお話しました。

この絵本のよしこおばあちゃんは、今、老衰の状態になっていて、口から何も受け付けなくなっています。このままでは栄養が摂れないので、時間の問題です。よしこおばあちゃんは、どうなっていくのでしょうか?

いつも可愛がってもらっていたひ孫は、「栄養補給と言っても、要は延命治療ではないの?ひいおばあちゃんは、『そっと自然のままにさせて』と拝むように言ったよ。」と言いました。本人の気持ちは皆わかっています。

家族は、悩み、話し合いをします。この世に生まれてきた以上、いずれその時がくるのは分かっていることですが、いざその時がきてしまうと、うろたえて、 「今を乗り切れば、食べられるようになって、まだ元気なおばあちゃんに戻ってくれるんじゃないか?」と、考えたりもします。つい最近まで元気だったので、おばあちゃんの死が迫っていることを受け入れられません。

結局、ひいおばあちゃんの息子であるおじいちゃんが、ひいおばあちゃんに生きていてほしくて、経鼻チューブ栄養を選択しました。

充分な栄養が補給できるので、少し元気になりました。家族は、とりあえず安心します。でも、本人は、鼻に常にチューブが入ったままなので、「気持ち悪いよ。」と言っています。

そしてついに、ひいおばあちゃんは、鼻から胃へ入れているチューブを引き抜きました。 医師は、「また、引き抜くと危険なので、とりあえず拘束に同意してください。」と言います。同意が無い拘束は、虐待と言われます。

おじいちゃんは仕方なく同意書にサインします。すると、ひいおばあちゃんは、手の指を動かせない拘束手袋をされ、柔らかい包帯のような布で手首をベッドの柵に固定されました。 (このおばあちゃんはしませんでしたが、足が動いて点滴をひっくり返したりする場合もあり、足も固定された人もいます。)

おじいちゃんは、ひいおばあちゃんのこの姿を見て、悲しくなり、 「今を乗り切れば治る人は栄養補給も必要だろうけど、老衰でもう体が拒否しているのに、括り付けてまで栄養を与えなければならないのかなあ。」「でも、先生に言えないなあ。」と自分の選択への後悔もあり、辛い胸中をつぶやきます。

医師から 「この今の危険な状態では、退院後の受け入れ先はありませんよ。胃ろうをお勧めします。」と言われます。 現実の話で、「医師から『今、栄養を入れないと餓死するんですよ。』と言われた。」という方がいるのも事実です。餓死とは、すごいインパクトですが、老衰の場面では、もう体が必要としていない状態なので、うつらうつらとして苦しくないと書かれた書籍が多々あります。

経鼻チューブ栄養はいつでも止められるので、延命治療ではありません。」という意見もあります。実際、経鼻チューブ栄養は、唾液が気管に入り誤嚥性肺炎や感染症を起こすことがあるので、そう長くは使えません。

その後の胃ろうを選択しない場合は、経鼻チューブ栄養を続けるか、もう止めるかという選択も迫られ、その後も次々に選択肢を示されます。 

本人の意識がない場合は、どう思っているだろうか?こうして寝たきりでも生きていたいだろうか?幸せだろうか?今ここで止めるという選択をすると、自分が命を止めてしまうが、それで良いのか?ずっと葛藤は続きます。どう決定しても、もっと良い方法があったか?と延々と苦悩は続きます。

自分の命は、誰のものか?どう終えたいのか?どうするのが本人とみんなの幸せか?という基準をしっかりと家族や周りの方々と話し合っておくと、家族の意思も統一されて自信を持って対応できます。愛する家族の死はとても辛いですが、話し合いをして本人の希望どおりに見送った時は、辛い中にも満足感があります。命の話し合いをしましょう。

次回は、よしこおばあちゃんの病棟の別の部屋の様子が見えてしまいます。